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仙台高等裁判所 昭和31年(ネ)350号 判決

控訴人(原告) 松盛治

被控訴人(被告) 福島県知事

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人が昭和三十年四月十四日付を以てした次の換地予定地指定の変更処分、すなわち、(イ)福島県郡山市字燧田一四〇番地宅地五二坪、同所一四一番地の二宅地一二坪三合、同所一四四番地宅地六七坪を従前の土地として、その換地予定地を一二ブロツク八号とし、(ロ)同所一四六番地のロ宅地一一坪、同所一四七番地の二宅地二坪二合五勺を従前の土地として、その換地予定地を一四ブロツク二号のロとする換地予定地の指定処分(昭和二十八年二月二十八日付)を変更して、(イ)前記燧田一四一番地の二、同一四六番地のロ、同一四七番地の二の各宅地を従前の土地として、その換地予定地を一二ブロツク八号のロとし、(ロ)同一四〇番地宅地を従前の土地として、その換地予定地を一二ブロツク八号のイとし、(ハ)同一四四番地宅地を従前の土地として、その換地予定地を一四ブロツク二号のロとする換地予定地の指定処分(昭和三十年四月十四日付)を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴人の指定代理人等は主文と同趣旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、控訴代理人に於て「換地予定地の指定の法律的性質は条件附権利又は期待権と解すべきであつて、条件の成否未定の間又は期待権が確定の権利となるまでの間に於ては、行政庁といえども、みだりに之を変更し、権利者の法律生活を脅かし又は事実上権利者に損害を与えるようなことは、なすことができないというべきである。したがつて被控訴人が行政庁の都合のみに重きをおき、権利者側が従来の期待に反し不測の損害を蒙むることを顧慮することなく、本件換地予定地の指定を重大なる理由なく数年を経過した後に変更したのは失当であつて、行政権の濫用である。なお本件土地については変更された換地予定地につき、換地処分がなされ、昭和三十一年七月三十日右換地処分に伴う登記がなされた。」と述べ、被控訴人の指定代理人等に於て「被控訴人は昭和二十八年二月二十八日付換地予定地指定処分後に権利の異動を発見したので関係者に於て協定するよう控訴人及び訴外佐原に催告照会したところ、協定調わず、訴外佐原は被控訴人に一任する旨申出でたので、被控訴人は土地区画整理法施行前に換地処分をなす必要上、特別都市計画法第十条に基き土地区画整理委員会の意見を聞いて本件変更処分をしたものであつて何等違法ではない。又控訴人に対しては被控訴人従来主張の如く所有権、借地権ともに指定されているから、使用上は何等支障はなく、控訴人に損害を及ぼすものではない。本件土地につき控訴人主張のとおり換地処分がなされ、昭和三十一年七月三十日右換地処分に伴う登記がなされたことは認める。」と述べた外は、すべて原判決摘示事実のとおりであるから、之を引用する。

(証拠省略)

理由

被控訴人が郡山市字郡山駅前一帯に施行された特別都市計画法に基く土地区画整理事業の施行者であること、被控訴人が昭和二十八年二月二十八日付を以て、原判決添付第一図面表示のとおり、同市字燧田一四〇番地、同一四一番の二、同一四四番地の宅地三筆を従前の土地として、その換地予定地を一括して一二ブロツク八号(七三坪九合四勺)に、同所一四六番地のロ、同一四七番地の二を従前の土地として、その換地予定地を一括して一四ブロツク二号のロ(七三坪四合九勺)に、それぞれ指定したが、昭和三十年四月十四日付を以て右の換地予定地指定を変更して、原判決添付第二図面表示のとおり、右一四一番地の二、同一四六番地のロ、同一四七番地の二の宅地三筆を従前の土地として、その換地予定地を一括して一二ブロツク八号のロ(三十坪九合五勺)に、右一四〇番地宅地を従前の土地として、その換地予定地を一二ブロツク八号のイ(四二坪九合九勺)に、右一四四番地宅地を従前の土地として、その換地予定地を一四ブロツク二号のロ(七三坪四合九勺)に、それぞれ指定したこと及び右一四一番地の二、一四六番地のロ、一四七番地の二の各宅地が控訴人の所有であり、右一四〇番地、同一四四番地の各宅地が訴外佐原真吉の所有であることは当事者間に争がない。(右の変更処分による換地予定地の指定は土地区画整理法による仮換地の指定であると認める)

そこで被控訴人のなした右換地予定地指定の変更処分が適法であるかどうかについて判断する。特別都市計画法上の換地予定地指定処分は、換地指定のなされるまでの暫定的措置であつて、終局的若しくは確定的な性質を有するものではないから、区画整理施行者が一たん換地予定地の指定処分をした後においても、区画整理事業の施行上、前になした指定処分を取り消し変更することを必要とするような公益上の事情が生ずるに至つた場合には、之が取り消し変更をなし得るものと解すべきである。いまこれを本件についてみるに、従前の土地である前記一四一番地の二、一四六番のロ及び一四七番の二の三筆の宅地につき昭和二十八年十月三日訴外横山益造名義より控訴人名義に所有権移転登記がなされたことは当事者間に争がなく、右事実に成立に争のない乙第一号証の一、二、乙第四号証の一、二、乙第六、第七号証の各記載、当審証人佐原栄一の証言及び原審に於ける控訴人本人尋問の結果を綜合すると、昭和二十八年二月二十八日当時に於ては、右一四一番地の二、一四六番地のロ、一四七番地の二の土地は訴外横山益造の所有名義に登記されており、又右一四〇番地、一四四番地の宅地二筆はもと右訴外人の所有なりしところ、訴外佐原真吉に於て昭和二十七年二月頃競落によりその所有権を取得したが、右の権利異動の事実が被控訴人に届出でられなかつたため、被控訴人はこれら従前の土地がいずれも訴外横山益造の所有に係るものとして前示の如く昭和二十八年二月二十八日付換地予定地指定処分をしたこと、しかるところ、その後右一四一番地の二、一四六番地のロ、一四七番地の二の三筆は控訴人の所有であり、右一四〇番地、一四四番地の二筆は訴外佐原真吉の所有であつて、控訴人所有の一四一番地の二の宅地十二坪三合と訴外佐原真吉所有の一四〇番地宅地五十二坪、一四四番地宅地六十七坪を従前の土地とし、その換地予定地として前記の如く十二ブロツク八号(七十三坪九合四勺)を一括指定せられていることが判明したので、被控訴人は昭和二十九年十一月五日控訴人及び訴外佐原に対し右換地予定地十二ブロツク八号の土地につきその使用、収益の範囲を右両名の協定に基いて区分し、その協定の結果を同月十五日までに被控訴人に報告するように求めたが、右両名間に於て協定成立するに至らなかつたこと、そこで被控訴人は前示第一次の換地予定地指定処分を変更し、更めて従前の土地の所有者ごとに仮換地の指定をしなおす必要ありと考え、なお右十二ブロツク八号の土地のみにつきこれをなすときは、控訴人所有の一四一番地の二は十二坪三合で過少宅地となり独立して換地予定地を指定するに適せず、一四六番地のロ、一四七番地の二と合せて一枚の換地予定地を指定するを妥当とした結果土地区画整理委員会の決議を経た上、前記第一次の換地予定地指定処分を変更し、前記の如く控訴人所有の一四一番地の二、一四六番地のロ、一四六番地の二の三筆を従前の土地とし之に対する仮換地として十二ブロツク八号のロ(三十坪九合五勺)を、訴外佐原真吉所有の一四〇番地、一四四番地の仮換地として、一二ブロツク八号のイ(四十二坪九合九勺)、一四ブロツク二号のロ(七十三坪四合九勺)を、それぞれ指定する処分をなしたることを認め得べく、右認定を左右するに足る証拠はない。

右の認定事実によれば、被控訴人が前示の如く昭和二十八年二月二十八日付の換地予定地指定処分を昭和三十年四月十四日付を以て変更したのは、先に換地予定地として指定した前記十二ブロツク八号に対する従前の土地三筆のうち二筆は訴外佐原真吉の、他の一筆は控訴人の、各所有なるため、右十二ブロツク八号地について、その従前の土地の所有者として控訴人及び右訴外人の両名において之を使用、収益し得ることとなるが、右両名の協定不調の結果、その使用、収益の関係が特定しないことによる不便を除去し、従前の土地の各筆の所有者ごとに更に仮換地を指定して、その使用、収益の関係を確定せしめ、以て土地区画整理事業の実施を急速適確に進めようとする公益上の必要に基くものであると認めることができる。控訴人は右変更処分は行政権の濫用であつて違法であると主張するけれども、右主張事実を認めて前記認定を覆えすに足る証拠はない。

次に控訴人は被控訴人のなした右変更処分により、控訴人の権利が侵害された旨主張するので判断するに、右変更処分により、新たに控訴人の仮換地に指定された十二ブロツク八号のロの地上には殆んどその全地域一杯に訴外柴原光利所有の木造二階建家屋一棟が存在していることは、当審における検証の結果により明らかであるけれども、前記乙第一号証の一、二、第六、第七号証によれば、昭和二十八年二月二十八日付でなされた従前の一四〇番地、一四一番地の二、一四四番地の換地予定地として指定された十二ブロツク八号の土地については、控訴人のためにも借地権の指定がなされ、昭和三十年四月十四日付で変更され従前の一四〇番地の仮換地として指定された十二ブロツク八号のイの土地については、控訴人のため借地権の指定がなされていることが認められるから、右柴原光利所有建物が存在するからといつて、右換地予定地の指定の変更により控訴人が右十二ブロツク八号(イ、ロ、を合せたもの)の使用収益をなすにつき、右変更前より不利益を蒙るものとはいえない。又右十二ブロツク八号のロと控訴人所有の郡山駅前十五番地の八宅地との間に訴外佐原真吉の仮換地である十二ブロツク八号のイが介在していること及び右十二ブロツク八号のイの地上に控訴人所有の建物が存在していることは当事者間に争のないところである。しかし同一人に対する仮換地であつても必ずしも一箇所にまとめて之が指定をなす必要はなく、被控訴人が右変更処分に於て右の如き配置で仮換地の指定をしたからといつて直ちに控訴人の権利が毀損せられたものとは認め難い。のみならず、前記認定のとおり右十二ブロツク八号のイについては右変更処分に於て控訴人の借地予定地としての指定がなされているのであるから、控訴人所有の右十五番の八、十二ブロツク八号のイ、十二ブロツク八号のロの三筆の土地は、控訴人に於て一括して利用し得る関係にあつて、右十二ブロツク八号のイ地上の建物を取毀ち又は他に移転する必要はないのである。もつとも成立に争のない甲第二、三号証によれば控訴人と訴外佐原真吉との間に、右十二ブロツク八号のイにつき控訴人の借地権について争があることが認められるから、控訴人の右借地権のないことが確定されるに於ては、右の利用関係は消滅し、控訴人に於て右十二ブロツク八号のイ地上の前記建物を収去しなければならない結果の生ずることなしとしないが、既に認定の如く控訴人は前記第一次の指定処分の換地予定地であつた十二ブロツク八号の土地については単に借地権だけの指定をうけているにすぎないのであるから、右のような不利益は前記変更処分がなされなかつたとしても生じ得るところであつて、特に右変更処分によつて生じたものということはできない。そして、右十二ブロツク八号の換地予定地については、その従前の土地の所有者である控訴人及び訴外佐原真吉の両名に於て之を使用、収益し得る関係にあつたことは前記の通りであるが、仮りに控訴人に於て右十二ブロツク八号の土地のうち、前記郡山駅前十五番の八の土地に隣接する部分を使用、収益することに確定したとしても、その範囲は従前の土地である控訴人所有の一四一番の二宅地の坪数である一二坪三合より少くなることは訴外佐原真吉所有の一四〇番地宅地五二坪、一四四番地六七坪に対比して明白であるから、前記第一次の指定処分が変更されなかつたとしても、前記建物収去の不利益はさけることができなかつたものであることも明らかである。したがつて、右変更処分により控訴人はその主張のような権利の毀損をうけるものとはいえないこと明らかである。しかも、前記乙第六、第七号証の各記載、当審証人佐原栄一の証言、当審に於ける検証の結果並びに弁論の全趣旨を綜合すると、右変更処分による仮換地十二ブロツク八号のロの指定は、その従前の土地である前記一四一番地の二、一四六番地のロ及び一四七番地の二の宅地三筆の位置、地積、等位などを標準として決定せられたものであつて、その利用価値も従前の土地に比し決して劣らないことを認めるに十分であつて、右認定を覆えすに足る証拠はなく、本件に現われた全資料によるも被控訴人が右変更処分により右仮換地の指定をなすにつき、施行者としての裁量権の範囲を逸脱した違法の事実のあることを肯認せしめるに足らない。

以上の次第で、被控訴人が昭和三十年四月十四日付を以てした、昭和二十八年二月二十八日付換地予定地指定処分の変更処分は適法であるという外はないから、右変更処分が違法であることを理由として之が取り消しを求める控訴人の本訴請求は理由がないものといわねばならない。のみならず、右変更の仮換地について本換地処分がなされ、これに伴う登記がなされたことは当事者間に争がないから、控訴人は最早右換地予定地の変更処分の取り消しを求める利益がないものというべきである。よつて原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却すべきものとし、民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 石井義彦 兼築義春 沼尻芳孝)

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